悪性腫瘍は、日本人の死亡原因の病気として半分以上を占めています。そして悪性腫瘍のうち胃にできるものと言えば、多くの方が真っ先に思い浮かぶのは胃癌でしょう。
ここで、「あれっ?癌ではなくて悪性のものってあるの?」と思われた方、いらっしゃるでしょう。そうです、あるんです。それが今回のテーマである「肉腫」なのです。詳しく書くと、胃の悪性腫瘍のうち、胃粘膜(つまり胃の表面)から発生したものを「胃がん」といい、胃粘膜以外(つまり胃の表面より下)から発生したもの「肉腫」と呼ぶのです。
胃肉腫は胃の悪性腫瘍のうちたったの5%以下であり、比較的珍しい病気と言えます。
悪性腫瘍の性質、つまり限度なく広がっていく性質は胃がんと同じです(専門的には「浸潤性や転移性を持つ」と表現します)。胃肉腫をさらに分類すると、頻度が高いのは「悪性リンパ腫」と「平滑筋肉腫」が挙げられます(他については頻度が少ないため今回は割愛します)。
●胃の悪性リンパ腫とは
一般的に悪性リンパ腫とはリンパ組織が癌化してしまったものをいい、リンパ節に腫瘍がコブ状に大きくできてしまって体表の皮膚からシコリとして触れられるようになって病院を受診することが多いようです。ところが、今回紹介する胃の悪性リンパ腫は、普通のリンパ節ではなく、胃に含まれるわずかなリンパ管内から発生した悪性リンパ腫のことをいいます。症状としては、腹痛・胃痛・胃もたれ・胃の不快感などといった、他の胃の病気と似た症状を契機に内視鏡検査を受けて見つかることが多いのですが、無症状で会社の検診(バリウム検査)を受けて見つかこともあります。
腫瘍細胞は粘膜下を主体に増殖します。内視鏡で肉眼的に見ると潰瘍のように掘れた状態に見え、胃の表層まで巻き込んだ場合では出血やびらんがみられます。
教科書的には褪色調粘膜、早期胃癌類似様、敷石様粘膜、粘膜下腫瘍様隆起、皺襞肥厚などと表現される所見を呈する。
(ここからの一段落はちょっと難しい話~skipしてもOKです)
ちょっと専門的な話ですが、治療法にも関係する重要な話。
この悪性リンパ腫の治療法や予後は組織型(顕微鏡像で分類)と病期(以下のように分類)で決まります。
リンパ腫は組織学的に分類すると「ホジキン型」と「非ホジキン型」に分かれますが、胃の場合には「非ホジキン型」がほとんどです。そのうちの大部分を占めるのが、①「MALTリンパ腫」(mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma,MALToma)と②「びまん性大細胞型」 (DLBCL:diffuse large cell type)です。
①MALTリンパ腫は胃の悪性リンパ腫の約40%を占め、男女比はほぼ同じであり、発症年齢は平均60歳です。発生病因として、多くはピロリ菌(Helicobacter pylori)感染によるリンパ濾胞性胃炎が背景病変と考えられています。そしてH.pylori除菌治療により胃MALTリンパ腫の多くは退縮します。
②DLBCLは胃悪性リンパ腫の45-50%を占め、発症年齢は60歳前後です。発生病因としては、単一な原因ではありません。純粋に高悪性度のDLBCLのみからなる症例もある一方で、病変内に低悪性度とされるMALTリンパ腫の成分を有する症例もあるからです。つまり、DCBCL単独発生説やMALTリンパ腫から連続して引き起こされるものという学説があるのです。各々に対する病期分類や治療法は別の機会に(昔は手術療法中心でしたが、現在は内科的治療中心になってきました)・・・・
胃の悪性リンパ腫の予後は胃癌と比較すると良好のことが多いです。
本来の悪性リンパ腫は血液の病気であり血液内科が担当する機会が多いのですが、胃のリンパ腫の場合は、消化器科と血液内科が併診し診察を進めていくことが多いです。
●胃の平滑筋肉腫とは
一般的に「平滑筋」は血管や膀胱、子宮など、管状または袋状の器官では胃壁などの「壁」にみられます。この平滑筋の働きにより、消化管(胃・小腸・大腸など)では食べ物を運んでいくのです。この平滑筋から発生する腫瘍のうち、悪性のものを「平滑筋肉腫」といいます。症状は基本的に無症状で、胃がん検診や会社の健康診断のための内視鏡検査などで偶然的に発見されることが圧倒的に多いです。但し、胃肉腫が大きくなった場合は胃痛や胃の不快感・吐き気・腹部膨満感など、「胃の調子が悪い」と言う時の症状になります。更に胃肉腫が大きくなると、出血して吐血や下血を起こすほどになってようやく発見されることもあります。一般的に粘膜の下から発育する腫瘍は良性であることが多く、内視鏡で見ると粘膜を押し上げて隆起するように存在し、表面は正常粘膜組織と一緒でツルツルしています。しかし、この「平滑筋肉腫」は、腫瘍の直径5cm以上もの大きさに育ってしまったり、表面中心部に潰瘍ができたりします
腫瘍の頂部の潰瘍所見は悪性を示すの所見として重要で、良性の平滑筋腫との鑑別に有用。
胃平滑筋肉腫の原因は複雑な遺伝子の異常が発生に関係していると考えられていますが、未だに研究途上です。治療としては胃局所切除術(partial gastrectomy)です。胃平滑筋肉腫は周囲のリンパ節への転移をきたしにくいため、胃を一部切除するのみで治療を終了できます(胃がんの場合に胃を全部あるいは2/3程度切除することになるのとは対照的です)。手術で腫瘍を切除しその細胞や組織を調べて初めて診断がつくことも決して珍しいことではありません。
最後に・・・
胃がんとは呼ばれていないけれど、悪性腫瘍であり、でも予後は比較的良好・・・・なんだか頭が混乱しそうですよね。私たちは少しでも効果的な治療ができるように、早期発見早期治療を目標に頑張っています。そのためには、症状の有無に関係なく定期的に検査(胃内視鏡検査)を受けていただくことがなにより重要です。
皆さん、人生は1度きりです!明日の自分のためにお身体のメンテナンスはきっちり行いましょう!