経鼻内視鏡ブログ

2012年1月19日 木曜日

「ミンクリア」は胃の動きを抑える新しい薬です

この「ミンクリア」は、胃の内視鏡検査の際に内視鏡を通して胃の中に散布する液体の薬です。
胃の蠕動運動を抑制して検査を行いやすくする効能があります。


もともと消化管は蠕動運動といって食道や胃・大腸にある筋肉の収縮が連続して起こり、食べ物などを一定方向に動かす機能があります。この蠕動運動は、水分や食べ物・運動などの刺激が加わると更に動きが活発になります。蠕動運動は自律神経の働きによって行われているため、意識的に調整することができません。そこで、これまでの胃内視鏡検査(胃カメラ)の時には、より正確に観察できるよう、注射薬によってお腹の動きを穏やかにして検査を進めていました。
ところが従来の注射薬(ブスコパン・グルカゴンなど)の場合は患者さんの病歴や現在治療中の病気がある場合は症状の進行や悪化を防ぐため、やむを得ず使用せず(=観察しにくいまま)検査を行うということがほとんどでした。

それに対してミンクリアはこれまでの注射薬と異なり全身に作用するわけではなく胃の中という局所的に散布して蠕動運動を抑制できるため、患者さんの病歴や持病に関わりなく使用できます。
つまり、「注射をしない」「副作用のリスクが少ない」ということが特徴なのです!!
患者さんの中には「注射はこわい・痛いから嫌です!!」という方はたくさんいらっしゃると思いますので、検査の前の緊張の中で注射をしなくて良いというのは少し安心して検査を受けていただけるのではないでしょうか。


ではどのように使用するのでしょうか?
使用方法は、内視鏡の鉗子口(組織検査をおこなう場合、胃や大腸の粘膜をつまんで取り出す機械を出し入れする場所)から胃の中へ注入すると胃の粘膜から吸収されます。
このミンクリアは従来の注射薬と同じ効果を発揮し検査終了までその効果をしっかりと保っているため検査中に注射薬を追加し使用する必要がゼロに近いのです。その為、副作用の心配も少なく検査を正確に行うことができれば患者様の負担を軽減できますし安全性も極めて高いです。

実はこのミンクリアの成分はメントール(薄荷;はっか)なのです!
メントール(はっか)と聞くと不思議と親近感を感じますね。
しかし通常のミント菓子と違って、飲むと刺激がとても強いため検査終了後にメントールが鼻に抜けてくしゃみが出る患者様もいらっしゃいます。また刺激が強いため内視鏡の外に飛散しないよう注意することが必要であり検査の技術の面では薬剤の性質上泡立ちやすい傾向があり注入時には医師としてはうまく行う必要があります。

そういえば、ミント水が消化管運動の抑制に役立つという小話は以前からありましたが、まさか本物の薬が登場するとは。
もしも注射も薄荷も苦手...という患者さんがいらっしゃれば少々残念なお話で申し訳ありません。
医療の技術、薬剤は日々新しいものが開発され進歩していきます。より良い技術・安全な医療を患者様に提供し続けられるよう、私たちも努力して参ります。

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2012年1月14日 土曜日

内視鏡機器の洗浄と消毒;強酸性電解水の利点と欠点について

内視鏡の洗浄と消毒について・・・「強酸性水」についてです
医療機器は感染の危険度別に3段階(critical,semi-critical,non-critical)に分類され、消化器内視鏡(胃カメラや大腸カメラ)はsemi-criticalに属し、高水準の洗浄消毒が必要です。

さて、現在、医療機関で用いられている洗浄消毒液のひとつに強酸性電解水があります。
強酸性電解水の利点はまず、殺菌効果が強いことです。具体的には大腸菌O-157やMRSAなどの一般細菌、真菌、ウィルスなどに対して幅広く即効的な殺菌効果があるのです。
また、安全性に優れており、皮膚や眼や口腔内に入っても何ら変化を引き起こしません。つまり洗浄する医療者に対して「優しい」のです。さらに、医療機関の立場では、ランニングコストが0.6円/lと安いことも利点です。


・・・ところが、この強酸性電解水。他の消毒剤(アセサイドやグルタールアルデヒド)と比較するとあまり用いられてはいないようです。
その原因は
①強酸性電解水の殺菌作用は有機物の混入でほぼ消失する
②内視鏡を長時間浸たすと内視鏡が錆びたり、光沢がなくなったりする
③日本消化器内視鏡学会のガイドラインでは奨励されていない
などによります。
これらの欠点のうち、①と②については事前のブラッシングなどを行った上で強酸性電解水による洗浄消毒を行ったり、強酸性水による洗浄後に水道水で細部をよく洗い流すことで解決できます。③については利権がからむところかもしれません。

私個人の意見としては、実質的に洗浄消毒に優れている強酸性水があまり用いられていない現状は残念に思います。強酸性水の利点と欠点を十分に理解していれば、より安全に簡潔にグルタールアルデヒドと同等の殺菌効果を得られるはずです。簡潔で高水準の内視鏡洗浄消毒は必ず患者サービスへとつながると思います。

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2012年1月13日 金曜日

検診のペプシノゲン検査で異常が出たら、経鼻内視鏡検査を

「ペプシノゲン検査」(またはペプシノーゲン)というのはご存知ですか?
会社の健康診断の血液の項目で目にしたことのある方もいらっしゃるのではないかと思います。
このペプシノゲンは胃粘膜の分泌腺から胃の中に分泌されるもので、胃酸によってペプシンというタンパク質を消化・分解する酵素になって働きます。そしてそのうち約1%が血液に流れ出すため血液検査で測定が可能なのです。

★「ペプシノゲン値が低い」=「胃粘膜が老化&萎縮」
ペプシノゲンの分泌量は胃の粘膜の状態により変化します。
萎縮した粘膜(=老化やピロリ菌によって起こる元気の無い粘膜)になると、ペプシノゲンの分泌は低下します。
皮膚で言えば、肌の老化がすすむとシワが多くなってカサカサしてくるのと同様に、胃の粘膜も老化が進むとシワが多くなり、ペプシノゲンの分泌も減ってくるのです。
ということは、ペプシノゲン(PG)の血中濃度を調べることにより、胃の粘膜の健康度がある程度わかると考えてよいのです。

★「胃粘膜が老化&萎縮」=「胃がんになりやすい」

胃がんの多くは、萎縮の進んだ元気のない粘膜から発生します。
「萎縮性胃炎は胃癌の発生母地である」という言われ方をします。
(参照)萎縮性胃炎

・・・・つまり、会社の健康診断でペプシノゲン値が低いと、三段論法的に「胃がんになりやすい」ことになるので、「精密検査(胃内視鏡検査)を受けてください」ということになるのです。



もう少し詳しく書くと・・・
ペプシノゲンはペプシノゲンI(PGI)とペプシノゲンⅡ(PGⅡ)に大別されます。
・ペプシノゲンI・・・主に胃底腺の主細胞(胃の下半分;胃底部や胃体部にある)というところから分泌されます。
・ペプシノゲンⅡ・・・主に胃底部のほか噴門腺(食道と胃のつなぎ目付近)・幽門腺(胃の出口付近)・十二指腸腺(十二指腸の付近)など、胃全体から分泌されます。

胃の粘膜の萎縮が進むと、胃底腺領域(胃の下半分)が縮小していくためペプシノゲンIの量が相対的に減ってくることになります。そこで、検診では、ペプシノゲンI/ペプシノゲンⅡ比をもって判定している施設が多いのです。基準値(正常値)は、ペプシノゲンI(PGI)値≧70ng/ml、ペプシノゲンI/ペプシノゲンⅡ比≧3.0とされています。

・・・・でも、ちょっと注意!
★ペプシノゲン検査に頼りすぎは危険
「ペプシノゲン検査」は採血だけで行えて簡便なのですが、盲点もあります。
このペプシノゲン検査は上に書いたように胃の粘膜の萎縮・胃の老化度を検出する検査です。
直接胃がんを検出する検査ではないため、見逃されるタイプの胃がんが少なからず存在するのです!
萎縮性胃炎を経ずに、元気な胃粘膜からいきなり発生する胃がんに対しては「ペプシノゲン検査」は無効であることは自明です。

そのような理由で、医療機関が診断目的でペプシノゲン検査を行うことはまずありません。
胃がんを見逃さないようにするためには、やはり年に1回の胃内視鏡検査を受けることが必要なのです。

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2012年1月13日 金曜日

鼻から行う胃内視鏡検査

経鼻内視鏡検査(胃カメラ検査)とは鼻から細いチューブ状(屈曲自在のファイバースコープ)のカメラを挿入して食道から胃・十二指腸まで、粘膜面に異常がないか明るい光源で照らしながら見る精密検査のことを言います。

鼻から異物を入れると聞くと、何だか少し怖い気もすると思いますが、大丈夫。
熟練した医師が検査すれば楽チンに終わります。
検査時間についてもあっという間・・・個人差はあるものの約5分程度です。


胃カメラ検査の長所は以下の通りです。
①病気を直接見ることができる
カメラの先端を粘膜ギリギリまで近づけて観察することができることから詳しい情報を得ることができます。その為、特に胃潰瘍や胃炎といった良性疾患だけでなく早期の胃癌などについても発見することができるのです。
②組織検査に提出できる
癌やポリープなどの細胞の一部を採取して(生検)診断を受けられることも大きな特徴の一つであり、同時にピロリ菌の検査も受けることも可能です。
また、バリウム検査に比べて放射線を浴びないというメリットもあります。
(参照)胃内視鏡検査とバリウム検査の比較



近年では早期の段階での胃癌発見であればお腹を切らずに内視鏡や腹腔鏡での根治切除という治療も可能となり、お腹を傷つけることなく切除するということも可能になってきました。
私自身、勤務中に胃カメラ検査を受けられた患者さん達の“受けて良かった”などの言葉を多く聞きますが、その度に胃カメラを定期的に受けていく必要性を改めて認識させられます。

胃癌などの病気は症状が出てから治療するようでは手遅れになり兼ねない病気です。
なぜなら胃がんのような病気は、かなりの進行度にならなければ症状が現れないからです。
40~50歳の無症状の方々にも是非定期的な検査を受けるようにしていただきたいですね。

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2012年1月 6日 金曜日

食道裂孔ヘルニア

食道裂孔ヘルニアとは食道と胃のつなぎ目の筋肉が弱くなって隙間が大きくなり、胃の上部の一部だけが食道の方にずれ出てきた状態のことを言います。

ちょっと詳しく書くと・・・(難しめかな?)
人には胸部と腹部の間に横隔膜という隔壁があり胸腔と腹腔を分けています。
胸腔と腹腔に連続している大動脈・大静脈・食道はそれぞれ横隔膜にある裂孔を通っています。
食道が通る穴が食道裂孔で、この穴を通って腹腔内にあるべき胃の一部が胸腔側へ脱出している状態を食道裂孔ヘルニアといいます。
食道裂孔からの胃の脱出は腹圧の掛け具合によっても変化しますし、立ったり座ったりしている時と横になっている時でも変化します。また呼吸によって出たり入ったりもします。
重症例では胃の半分以上、時には全体が縦隔内に脱出することさえあるくらいです。
(参照)食道裂孔ヘルニア


では一体何故、食道裂孔ヘルニアになってしまうのでしょうか?
原因としては生まれつき食道裂孔が緩く胃が脱出している先天性の食道裂孔ヘルニアと、
高齢となり体の組織が緩むとともに食道裂孔も緩んで食道裂孔ヘルニアとがあります。
また背中の曲がった人が解剖学的特長として食道裂孔ヘルニアを合併していることも稀ではありません。
その他、喘息・慢性気管支炎などの慢性の肺疾患のある人・肥満の人は腹圧が上昇するので食道裂孔ヘルニアになりやすくなります。


「食道裂孔ヘルニア」と聞くとその病名から腰の“ヘルニア”のようなものなのかな?
と連想してしまう人もいますが、当然ながら全く別物です。
(「ヘルニア」とは「飛び出すor滑り出す」というような意味合いなので、体の色々な部分でヘルニアと呼ばれる病気があるのです)


食道裂孔ヘルニアは、軽症ならば治療や手術の必要はないです。
ただし、食道裂孔ヘルニアが高度になると胃液が食道に逆流し食道の炎症を引き起こすことになります。
胸焼けや腹痛などの自覚症状がある場合は、逆流性食道炎になっている可能性がありますので、
日常生活でこのような症状に気づいたら早めに受診することが大切になりますね。
(参照)逆流性食道炎

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